講座コンセプト

AI研究開発、特に多くの技術進展をもたらしているディープラーニングにおいては、大量かつ高品質のデータをいかに収集・活用するかによって性能が左右されます。こうした中で、現実世界で収集可能な限られたデータだけでなく、現実を模した仮想世界(シミュレーション空間)において生成・蓄積したデータにディープラーニングを適用するアプローチが注目を集めています。実際の工場などをシミュレーション空間内に再構成することで、より短期間かつ効率的にデータを生成・取得しディープラーニングを行うことが可能となるなど、様々な産業で活躍するAIが開発されることが期待されています。

シミュレータの活用に関して、近年、ディープラーニングによってシミュレーション空間自体を構築する世界モデルに関する研究も大きく発展してきています。今後はさらに、世界モデルに基づいたロボティクスや AI による言葉の意味理解の研究など、 AI のポテンシャル拡大に資する分野も進展すると想定されます。DeepMindやGoogleBrainなども世界モデルの研究に注力しており、この技術発展による社会的なインパクトは大変大きなものになると予想します。

東京大学工学系研究科松尾研究室では、これまでこの世界モデルを中心に、強化学習、ロボティクス、深層生成モデル、NLP、マルチモーダル技術等の先端領域の研究を進めてまいりました。
今後世界モデルをはじめAIに関する基礎的な研究の社会実装をさらに加速するとともに、ディープラーニングの研究をリードする人材を輩出する趣旨にご賛同いただいた寄附企業によるご協力のもと、2021年度より「世界モデル・シミュレータ寄付講座」が開設されました。

世界モデル寄付講座の現状と展望

東京大学及び寄付企業の連携により、下記テーマを推進いたします。

①世界モデルの先行研究調査と基礎研究
②「世界モデルと知能」講座の開講を通じた知識の体系化・先端人材の育成
③基礎研究のロボティクスへの応用

「世界モデルと知能」について

講座名世界モデル・シミュレータ寄付講座
設置期間2021年7月1日から2026年6月30日までの5年間
実施形態オンライン
受講対象「深層学習」や「Deep Learning基礎講座」などを修了した学生、及びそれ相応のスキルを持った学生(東京大学以外の学生も受講可能です)
体制【企画・監修】
東京大学大学院工学系研究科松尾研究室 松尾 豊
東京大学大学院工学系研究科 精密工学専攻・教授/人工物工学研究センター・センター長 淺間 一
東京大学大学院工学系研究科 人工物工学研究センター教授 太田 順
【運営】
東京大学工学系研究科松尾研究室
担当教員東京大学大学院工学系研究科教授
講座創設先東京大学大学院工学系研究科(人工物工学研究センター)
ご寄付元スクウェア・エニックス・AI&アーツ・アルケミー、ソニーグループ、NEC

「世界モデルと知能」講義の特徴

技術に基づいて実装・活用できる人材を育成するためのカリキュラム構成

世界モデルの基礎となる技術を中心に、先端技術との関連や研究・応用両面の研究課題を学ぶ。

    • 演習を毎講義設定し、手を動かしながら最新技術を理解できるよう設計
      • 演習例:深層生成モデルを用いた世界モデルであるDreamerやTransformerによる世界モデルTrajectory Transformerなど
    • プロジェクト形式の最終課題を提示、基礎だけではなく応用力を養成
      • プロジェクトの内容は以下2種類から選択、チームで取り組む
        • ①自由課題:講義で扱った内容を発展させたプロジェクトを自由に計画・実験してまとめる
        • ②選択課題:運営側で提示する世界モデルに関する研究リストから一つを選び実施
      • 最終課題発表会で最優秀チームを決定
        • 口頭発表
        • ポスター発表
Gatherを活用した最終課題発表会の様子

2022年5月25日に開催された「世界モデルと知能」最終課題発表会の様子。

バーチャルスペースのGatherを使用し、ポスターセッション・口頭発表・表彰式・懇親会を実施した。

最終課題優秀発表

■柔軟物体操作のための世界モデルの構築と実環境への適用可能性の検証

PlaNetを活用して、Softgym上で様々な柔軟物の操作を学習・比較した。また、世界モデルの実環境適用を目指し、ロボットを用いた柔軟物操作学習について検討した。

発表者:稲富翔伍、金沢直晃、牧原昂志、籾山陽紀、渡部泰樹(※五十音順)

ブループ4稲富翔伍,金沢直晃,牧原昂志,籾山陽紀,渡部泰樹
■エージェント間の言語コミュニケーション

2Dシミュレーション上でエージェント間のコミュニケーションによって視覚的イメージを獲得し、タスク解決に活かしていく過程を先行研究に基づき実験した。また1対多のコミュニケーションによる協調が見られるかを検討した。

発表者:大島佑太、近藤凌平、芳賀悠哉(※五十音順)

受講生の声

初年度である2021年度は、170名強の学生が受講、81名が修了。
95%以上の学生が「非常に満足or満足」と回答するなど、満足度の高い講義となりました。

「世界モデルについてぼんやりとしたイメージしか持てていなかったのですが、具体的にイメージができるようになった。」

「世界モデルは、生成モデルや強化学習、時系列など手法を組み合わせたものである性質上、その背景にあるものの理解や整理に役に立ちました。 また、演習のおかげで、世界モデルについての概要だけでなく、実際のプログラムから層の構造や接続部分を見ることができ、詳細まで理解することができた。 」

「まだまだこれからもこの分野が根底から一新し続けていくのだろうという期待を、実感値を持って得ることができました。」

寄付講座体制

東京大学の教員に加え、寄付企業等からも実務家講師が登壇。受講者は先端技術に加え、実社会でのAI活用、先端の研究課題について多角的に学習し、学びを深める。

講師

岩澤 有祐

岩澤 有祐

東京大学大学院工学系研究科 講師
鈴木 雅大

鈴木 雅大

東京大学大学院工学系研究科 特任助教
Shane Gu (顧世翔)

Shane Gu (顧世翔)

Google AI, Brain Team/東京大学 客員准教授
山川 宏

山川 宏

東京大学大学院工学系研究科 特任研究員
松嶋 達也

松嶋 達也

東京大学大学院工学系研究科 松尾研究室

講師(寄付企業)

三宅 陽一郎

三宅 陽一郎

株式会社スクウェア・エニックス ・AI&アーツ・アルケミー 取締役CTO
森 友亮

森 友亮

株式会社スクウェア・エニックス ・AI&アーツ・アルケミー AIリサーチャー
光藤 祐基

光藤 祐基

ソニーグループ株式会社 R&Dセンター Distinguished Engineer
ミカエル・シュプランガー

ミカエル・シュプランガー

株式会社ソニーAI COO
寺尾 真

寺尾 真

日本電気株式会社 バイオメトリクス研究所主任研究員
大山 博之

大山 博之

日本電気株式会社 データサイエンス研究所主任

担当教員

松尾 豊

松尾 豊

東京大学大学院工学系研究科 教授
淺間 一

淺間 一

東京大学大学院工学系研究科 精密工学専攻・教授/人工物工学研究センター・センター長
太田 順

太田 順

東京大学大学院工学系研究科 人工物工学研究センター教授

寄付元企業

松尾研究室は、寄付元企業と協働することで、それぞれの強みを活かした人材育成および研究開発を推進していきます。

現在寄付元企業としてご参画いただいているのは、ゲームという仮想空間で様々な世界を構築してきた知見およびゲーム内で動作するAI研究開発に強みを有するスクウェア・エニックス・AI&アーツ・アルケミー、イメージング&センシング技術やロボティクス技術、ゲーム・音楽・映画のコンテンツ生成・表現技術など、実世界と仮想世界にAI技術を掛け合わせた領域を強みとするソニー、そして顔認証などの画像認識技術やロボティクス技術など多様なAIを活用し、社会実装を推進するNECです。

■株式会社スクウェア・エニックス・AI&アーツ・アルケミー

スクウェア・エニックス・グループに蓄積された AI やコンピューターグラフィックス(CG)等のアートに関する知識・ノウハウを活かし、ゲームのみならず幅広いエンタテインメントに活用できる「エンタテインメント AI」の研究開発と、他企業との連携も視野に含めた新たな事業分野の創出を目指しています。 

■ソニーグループ株式会社

ソニーグループ株式会社は、テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテインメントカンパニーです。ゲーム&ネットワークサービス、音楽、映画、エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション、イメージング&センシング・ソリューション、金融などの事業を展開し、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」ことをPurpose(存在意義)としています。

■日本電気株式会社

NECは、安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指します。

運営

東京大学 松尾研究室

東京大学 松尾研究室

企画・監修

松尾 豊

松尾 豊

東京大学大学院工学系研究科 教授
                       ©2021 Chair for AI Business Transformation